vol.1 香坂奈奈(こうさか なな) 「みんなのリトル高円寺」 の 空間デザイン
毎年 GW の時期になると「座・高円寺」の景色は一変してしまう。
みんなのリトル高円寺――誰でも自由に参加できる座・高円寺のイベントの開催。その最終日に会場に訪れました。あいにくの雨でしたが、会場はすでに満員(コロナ禍で人数制限あり)になるほどの盛況ぶり。歓声とともに元気に走り回ったり、もくもくと作業に没頭する子供達と彼らを見守る大人たちの姿が至るところに見られます。
舞台裏探訪(BACKSTAGE VISIT )の第 1 回目は、すでに GW の高円寺の風物詩とも言える「みんなのリトル高円寺」の空間デザインを担当した舞台美術家の香坂奈奈さんを訪れました。
わざわざ会場まで出向いて案内してくださった香坂さんがどうのようにこのイベントをとらえ、空間を創り上げていったのか話を聞きたいと思います。
会場入り口で出迎えてくれる香坂さん
―――今日はわざわざご案内ありがとうございます。
香坂:こちこそ。ようこそリトル高円寺へ。
―――まず、簡単にリトル高円寺とはどのようなイベントなのでしょうか?
香坂:簡単に言うと「劇場にできた架空の町」です。毎年テーマを決めてそのテーマに沿って空間をデザインしていくのですが、今回のテーマは「世界はひとりのイマジンだった!?」です。
―――「イマジン」? ですか。
香坂:この座・高円寺に住んでいる見えない架空の生き物「イマジン」が去年みんなに会えなくて元気をなくしていて(※昨年はコロナ禍で中止)、来場したみんなでイマジンを元気にしていこうというテーマです。
子供達の持っている楽しい記憶やイマジネーション、そういった気持ちを込めて作ったものや遊びのエネルギーをイマジンに届けて、目覚めさせて元の楽しい劇場にしてもらおうとプログラムデザインチーム(演出)のお二人と考えました。
―――なるほど。架空の生き物の名前なのですね。
‖‖ 自分たちスタッフだけで完結せずに子供達が作ってくれたものが会場を完成させていく。
―――ではお邪魔します。
香坂:はい、こちらをくぐってください。
(行く手にそびえ立つピンクのドーナツらしきもの。真ん中の穴をくぐると白い物体が並んで、表面には紙がたくさん付着して、物体のひとつは銀紙で包まれている。)
―――これは会場の入り口ですね。
香坂:はい、そうです。イマジンの口です。ここから会場に入っていくようになっていて、歯・のど…と繋がって行きます。
―――確かに子供目線の低い姿勢をとると唇・歯・喉…と口の中の絵がバランスよく浮かび上がってきますね。
香坂:一旦会場 (=体内) に入ると、そこは体の器官だったり意識内だったりで…それぞれのエリアでイマジンに元気になってもらうための遊びや工作などが行われています。
例えばここでは活動していないイマジンの歯にコトバ (=ハガキ) が詰まっていて、その奥のアーチでは昨日のどが腫れてきたという設定で、スースーストロー (画用紙の筒) からトローチの花を作って飾ってもらい、のどを潤ませてもらっています。
―――ハガキや画用紙などのどこにでもある身の回りのものを使って…
香坂:そうです。そうして来場した子供たちが画用紙に描いていったものや作ったものが増えていって徐々にイマジンにも元気になっていってもらうゾ、と。
―――先ほど言ってたテーマですね。
香坂:はい。そしてハガキは日替わりの色んなお題に沿って言葉や絵などを書いた後、こちらの郵便屋さんのエリアで投函してもらいます。通称カミカミ郵便局です。喉はスースーアーチ。
―――水色の郵便ポスト!おしゃれですね!タイトルも。
香坂:子供たちは〇〇屋さんとか大好きじゃないですか。ハガキも郵便屋さんに違うエリアに届けてもらってエリア同士を繋いでいく!という考えはいいなと思いました。
自分たちスタッフが作ったものだけで完結せずに子供達が作って加えていってくれたものが合わさって会場を完成させていく。
―――素晴らしい。入り口ですでに目を奪われます。となりのこれはすべり台ですね。
香坂:ええ、コロコロおかです。低学年の子も体を使って遊べる…ということも一つの狙いで。
―――確かに見るだけなくて遊べるっていう体験は子供には欠かせませんね。こちらの楽器は?
(すべり台に行く通路に楽器が飾ってあります)
香坂:このイベントの前に作戦会議というワークショップがあり、参加した子供達に楽器を作ってもらいました。自分の作ったものが飾られているのを見ることは当人達にとっても嬉しいことですし、楽器を鳴らすのも五感を使った気軽な体のアトラクションの一つなので、思い思いに鳴らしながらアップダウンのある道を歩いて行くのも楽しいかと。
―――なるほど。色々なことを想像しながら創りこんでますね。
香坂:すべり台一つで、子供たちがそれぞれどの素材・形がすべりやすいのか考えたり、どんな姿勢ですべるのが楽しいか日々研究して遊んでくれました。
―――遊ぶ側も研究熱心になるイベントですね。それからワークショップもされたのですね。
香坂:2回行いましたが、その内の1回で夢の中のイマジンをイメージするきっかけとして、子供自身の人型キャンバスに夢の中の自分をイメージして描いてもらいました。結構悩むかなーと思ったんですけど(笑)、意外とみんなすぐに取り掛かって…子供の想像力ってすごいなーと思いました。
―――すごいですね。ちなみこれは…?! 何ですか?
(会場の中心部空中に巨大な構造物が吊られています)
香坂:これはあちらのアゲアゲの木から吊り上げられるカプセルを転がす空中レーンのナガナガ河です。
―――ピタゴラスイッチのようなものに見えますが…
香坂:(笑)。みんなが好きなピタゴラはワクワクするかなと計画しましたが、実際に仕込む段階になった時はカプセルが何個流してもずっと止まらないように微妙な細工をするのが難しくて…。仕込みスタッフに「もうそのくらいで…」と諦めて言ったりしたんですが、結構ハマってくれて最後まで一生懸命に調整してくれました。
―――デザイナーとして、嬉しい「してやったり」ですね。
香坂:他にも色々と仕掛けがあって、例えばあそこの部分が逆勾配になっていて子供達がカプセルの入った台車をロープで引っ張ることによって球が前に進んで行く様になってるんですけど、「イマジンに届けるにはみんなの手助けが必要だよ」って呼びかけて子供達に手伝ってもらうという…参加型になってるんです。
―――なるほど。参加する…大事ですね。しかも、ストーリーがあると感情移入もしやすい。
香坂:確かにそうですね。周りで観ている人たちも「頑張れ!頑張れ!」って声掛けしてくれて、こちらの予想していなかった一体感が生まれたりしました。
―――すごいですね。
‖‖ 「座・高円寺」という劇場の建物自体がイマジンでもあるというニュアンスもあります。
―――あちらの巨大な箱は?
香坂:あれはラジオブースで、さっきのカミカミ郵便局から届いたハガキを読んだり、子供達に予想してもらった天気予報の番組を流して、時間になったら向こうの公園に(※イベント空間の対角の奥のエリアを示しながら)、その天気を映写したり、エリアとエリアを繋いでいくという考えで設置しました。
―――先ほどもおっしゃってましたが繋いでいく…いい言葉ですね。となりの壁は?とてもキラめいて見えますが… (いくつか大きい丸い穴が空いていてその中にキラキラした物が埋まっています。)
香坂:あそこは、毎日毎日子供達が作ってくれた工作物を飾っていっています。イマジンのココロで、子供達の想像する元気なイマジンを考えてもらってそれらで(心の)穴を埋めていく。テーマと同じでいっぱいになったらイマジンが元気を取り戻す設定になってます。
今日、あそこの埋まってないところが全部埋まると、イマジンが元気になって目覚めてくれる事になります。
―――ここでもテーマとのリンクが。照明効果と相まってキレイなガラスのおはじきの様にも見えます。
香坂:丸い穴が壁に空いているのはこの「座・高円寺」という劇場の建物に丸窓がたくさんあって、この建物自体がイマジンでもあるというニュアンスもあります。
―――建物とのリンクですか。そう言われてみれば同じですね。
香坂:それと何回も来る子供たちが次に来た時に自分の作ったものがどこに飾られているんだろうと見つけるのもーー先ほども言いましたがーー楽しみの一つなのです。
―――確かに楽しみですね。
香坂:こちらはバレバレ砂漠です。 肝臓(レバー)の部位に掛けてます。床を掘り下げて3人ほど入れる様になってます。緩衝材やプチプチを入れて靴を脱いで素足で感触を楽しむ、ちょっとした足場湯的な休憩所にしています。
―――このお座敷のようなセットは?
香坂:こちらはシワシワ和室。芝居っぽいセットを一つ用意しようとデザインしました。器官としては鼻と花に掛けて、ここで紙の花を作って和室の周りの花壇に飾ったり床の間で活けたりして、いい匂いで元気にしようという挿して花で埋めようというエリアになってます。床の間の形が一応鼻の穴になっていて、そこから材料を取り出して… (笑)。
―――隅から隅まで凝ってますね。残念ながら今満席で入れませんね(笑)。(満席の貼り紙)
香坂:はい(笑)。会場自体もそうなんですが、エリアでも密にならないように人数制限をしています。
普段はもっと入り組んだスペースになってて、わざとに隠れたエリアをこしらえたりします。ですが今回はコロナの影響で密閉する狭い空間を作れず…
―――残念ですね。そういうところにもコロナの影響があるんですね。
香坂:そうです。子供達は秘密基地とか好きじゃないですか。そういうものを本当は提供してあげたかったです。
―――あぁ、確かに。自分にもありました、秘密基地。
香坂:でもおもしろいことに勝手に作られていくんですよ。先ほどのアゲアゲの木の裏は吊り電球の高さが変わって壁に映るセロファンや蓄光モビールの影の形が変わるという、影絵で遊ぶだけの狭い空間だったんですが、こちらの予想に反して皆んなから見えない場所が勝手に秘密基地化して行き…(笑)
―――いくつもの予想外の出来事が起こってますね(笑)。
‖‖ 子供達の元気に負けない様にこちらも元気さを出せる様にしました。
―――反対に会場の真ん中はひらけた工作場になってますね。レーンの下。
香坂:ハラハラ時計と呼んでます。上から毎日毎日ある一定の時間に特別な素材が降りて来て――例えば今イマジンが草原の夢を見ていたなら緑色のもの――その素材を使って子供達の想像するイマジンの顔や姿を作って行くという流れです。リピーターの子供達も毎日違ったもので楽しく遊べるという趣向になってます。
―――なるほど。先ほども聞きましたがリピーターの子も結構いるのですね?
香坂:はい。特に近所の子供達は何度も来る子もいます。毎日、だけでなく毎年来てもらえると嬉しいですね。例えば、あの子は(※目の前を横切った子を示して) 中学生なんですけど毎年毎年来てくれてて「ここのキャストにはどうやったらなれますか?」と聞かれました。
―――それは嬉しいですね。ちなみにキャストとは?
香坂:キャストとは会場のこの世界の住人--イマジンの腸内細菌的なイメージ--です。座・高円寺のアカデミー生やその修了生が担当してくれてます。装置の製作など準備段階から関わって、イベント期間中は子供達を案内したり会場を盛り上げてくれてます。今回は消毒だけする消毒隊キャストもいて、子供が触るものは1回1回消毒液で拭いて…。そしてキャストも1時間に1回消毒休憩してます。
―――参加型イベントでとても困難な状況だと思いますが、徹底してますね。
香坂:はい、皆で気をつけてます。最後はモコモコ園です。特に静かに過ごしたい子供達のためにこの空間を用意しました。たくさんの絵本を置いて読書をしてもらったり、さらに中身が白紙の本も作って子供達が文字を書いたり絵を書いたりして自由に楽しんでもらおうと思って。
―――皆んながみんな動き回るばかりでなくて?いい配慮ですね。しかも本をつくる?
香坂:はい。例えば、1ページとか何ページかづつですが、みんなで話や絵を書いていき一冊の本を完成させるということも始まって続いています。
―――何人かで1冊の本を!?すごく練られたプランですね。
香坂:ここでも繋がる・繋げるという私たちのテーマで…。
―――そうですか。後でゆっくり伺いたいですね。それにしても会場を回ってみて沢山の造形物に可愛いモチーフ、色もカラフルで幻想的かつポップな空間。素晴らしいです。
香坂:ちょっと派手かなーと思ったんですが…子供達の元気に負けない様にこちらも元気さを出せるようにしました。雰囲気作りは照明にも助けられています。毎日テーマがあって、イマジンが海の夢を見ていたら海っぽい明かりを演出したり…と毎日来ても見え方が異なるようにしています。
―――ここでも皆んなで力を合わせて…ですね。
香坂:はい、そうです。先ほど説明したキャストの方々もそうですが、たくさんの人たちが支えてくれてます。みんなのマジカラ (=子供達が作ってくれたもの) がいっぱいになってきてる最終日の今日は、みんなで作った楽器を鳴らしながらパレードをして、イマジンが目覚め会場は全員で賑やかに盛り上がる、という事を最後にやる予定です。
―――素晴らしい、フィナーレのイベントですね。最後まで無事に行くとよいですね。この後はもう少し付き合っていただき、今回のデザインのことなど更に聞きたいと思います。
笑顔で話しをしてくれる香坂さん
‖‖ 1人で遊びを完結させないで皆んなで築きあげていく…という思いも込めています。
―――改めて「みんなのリトル高円寺」とはどういうイべントですか?
香坂: 元々は「劇場の中の子供たちが主役の架空の町」という意図の基に始動した企画で、それが「リトル・高円寺」になりました。もう10年ほど続いています。
この町ではルールがなくて、子供たちのアクション・創造で風景が変わっていく・自由な空間になっていく、というイベントです。
―――今回はどのようなデザインですか? またコンセプト/テーマは何でしょうか?
香坂: 最初にも言いましたが、公式テーマは「世界はひとりのイマジンだった!?」です。
その元気をなくしたイマジンをみんなで元気にしていこうという目的で空間や遊びをデザインしました。そして個人的には先ほどの「子供たちが主役」という事にプラスして、「子供が膨らましていける空間」ということをデザインする上で意識しました。
―――なるほど。膨らませていける空間。確かに会場はその様子が伺えました。
香坂: それから複雑なことよりもわかりやすい設定にした方が良いと思い、巨大な謎の生物イマジンの体に見立ててエリア分けしました。
―――口が入り口というのはスタートからいい意味で本当にわかりやすいですよね。
香坂: そして、もう一つ「巡らせる・繋がる」という考えもあり、例えば子供が1人で来ても他の知らない子供達と巡り巡って繋がって…1人で遊びを完結させないで皆んなで築きあげていく…という思いも込めてます。
ところがコロナで物理的に何か一緒に力を合わせる遊びができなくなってしまって、プランの変更を余儀なくされたんですが、思いは残っていてディレクターチームと調整していきました。
―――そんなことがあったんですね。
香坂: そうですね。例えば、先ほど見てもらったのですが、歯に詰まったハガキをとって、何かを書いて郵便局に届けて、ラジオ局に郵送され、ラジオで他の人たちに言葉を発信するとか。
モコモコ園で本1冊をみんなで書き上げるとか…「小さい連携プレー」の様なことができる様に変更しました。「繋がる」を作品に託すというか。
―――いいですね。何回もおっしゃってました「繋がる」。それは今年の特徴になるでしょうね。
香坂: はい。でも劇場ならではの大掛かりさも必要だと思い、例えば空中レーンも見た目繋がって見えるし、巨大なものが空中に浮かんでると迫力出るだろうと…。
―――ありました。見たのでよくわかります。家ではとても体験できない劇場空間でした。
会場の平面図
‖‖ 「感動する景色を創りたい」という想いはずっと私の中にあると思います。
―――ちなみにインスピレーションとかリサーチなどは?
香坂:私自身、子供向けの演劇はやったことがあったのですが、この様な体験型のイベントは初めての経験で最初はどうアプローチしようかと迷いました。でも資料本など見て参考にするよりもまず体験しなくてはダメだろうと思い…
―――なるほど。参加者の目線で。
香坂:それでイベントに行こうと探したのですが、あいにくコロナ禍で参加がなかなか難しく…
―――ここでもコロナの影響が。
香坂:もうディレクターチームと、皆で思いつくままブレインストーム会議を定期的に重ねて重ねて、意見を手当たり次第投げ合い、シュミレーションをするということを続けました。
妄想力の駆使です。
―――なるほど、徹底的に想像する、ですか。では自身が子供の頃の演劇体験の思い出などはどうでしょうか?例えば今回のイベントのデザインに活かされてることはありますか?
香坂:幼い頃、北海道の田舎に住んでいたんですけど、あちらの景色や植物相は全然本州と違っていて…とてもダイナミックなんです。林を歩いていくと一面スズラン畑に変化したり、そばにある水たまりを掬うとおたまじゃくしだらけとか。記憶の中での原風景は雄大な自然がすごくキラキラしていて、それを創りたいというか見たいと思ってますね。
今回のイベントにそれが活かされているかどうかはわかりませんが、「感動する景色を創りたい」という想いはずっと私の中にあると思います。
―――感動する景色ですか。素敵ですね。普段の演劇のデザインアプローチやプロセスと今回はどう違いましたか?
香坂:芝居というものはまず脚本があって、それは割とブレない拠り所として存在しているわけです。デザインすることは脚本を読み込んで答えを見つけていく…という感じなのですが、このイベントは….
―――勝手が違いましたか?
香坂:そうですね。やはり単なる見世物でなく、デザインした劇場空間に入ってきて体験してもらうというイベントなので正解がなく――もちろん芝居の美術も正解はないんですが――お芝居以上に子供達がどう反応するかと事を考えるところに苦労しました。ここでも「妄想力」を力一杯駆使しました。
―――それは大変ですね。子供達は常にこちらの想像の上を行きますね。
香坂:ですので、あまり完成させすぎない、子供が創り上げていける余地を残しておく…というところにも気をつけました。先ほども言いましたが「子供が膨らましていける空間」です。その上で魅力的な空間にもなってなくてはいけない。
―――案配が難しそうですね。
香坂:はい。それからビジュアル面だけでなく、こういうものを取り入れたら――例えば赤い平均台の上に何色かの丸を点々とつけて決まった色だけ踏んで渡る遊びを誘導するとか、赤い線だけ辿って行って遊べるコーナーとか――こんなことが出来るのではないかという遊び方の提案などが芝居に関わる時とは違っていました。もちろん芝居では小道具の使い方の提案をするなどとの類似性はありますが。
それから少し話がずれますが、私がデザインしたものの意図をキャストさん達が汲み取ってくれて、あるいはそれ以上の方法で使ってくれているので、意図した以上のものが生み出されている印象を受けます。プランナーのアイディアだけで終わらずにどんどんプラスアルファが積み重なっている。来場した子供たちやエリア担当のキャストの人が一緒になってデザインというか、遊び方も考えてくれる。
―――スタッフ側にも「膨らましていける」余地があったという感じですね。他には?
香坂:子供達相手なので、普段芝居で使う大道具用の素材ではなく、身の回りの日用品を使って素材選びをしていきました。お芝居だと立体物はスチロールで削ったりなどしますが、あまりにリアルだとホラーチックになって怖がる子もいるし、それ以上の面白さは生まれない。
ーーーなるほど。
香坂:そうではなくて普段こう使っているもの、こう見えているものが、こんな風に変化するんだよ!ということを子供達に見せたくて。
―――そういう機会はとても意義がありますね。今回のデザイン過程で一番楽しかったことは?
香坂:元々人と一緒にものを創るということが好きですが、今回参加している座・高円寺アカデミー生の若い世代と作業をできたのはとても良かったです。作業自体は大変なことも多かったですが、沢山エネルギーを吸いと…もらいました(笑)。
―――(笑)。逆に今回のデザイン過程で一番大変だったことはありますか
香坂:レーンの仕組みを考えるのが大変でした。まず6尺 (※約180cm) のもので、ある角度でまず試して、そこから段々と調整していき…と言うだけなら簡単なんですが、シーソー部分とか子供が引っ張る部分とかバランスを取るところにそれこそ何日も何日も四六時中違う角度と長さで試して…自動復旧しないといけない、やりっぱにしておけない箇所がなかなか自分の中でうまくいかなくて、これは孤独な作業でした。
―――でも視覚的に圧巻でした。今回上手く出来たことはありましたか?
香坂:カラフルにしたところかな。作業中、みんなでちょっと眩しいかなー、と言いながら塗っていたんですが、イベントが始まってみると案外全然そうでもなかったです。アンケートでも、保護者の方がこのコロナ禍で社会が沈んでいるので元気に溢れてていいね、とかなり好評でした。
―――細かいところまで凝ってましたね。ちなみに良い意味でも悪い意味でもびっくりしたことはありましたか?
香坂:先ほども言いましたが、子供達がこちらの予想以上の遊び方をしてくれるところです。これに尽きますね。
―――ではやりたかったけど、出来なかったということはありましたか?
香坂:子供達は秘密基地とか本当に好きで、入り組んだ空間や吸い込まれていく様に小さい閉じた空間に集まることが多いのですが、コロナ禍で密な空間をなるべく作らない様にしたのでそれが少し残念です。
それから、もう少し高台や段差をつけてもっとアスレチック感を出したかったのですが、あまりフィジカルなセッティングにしてしまうと、より激しい接触が起こるのでそれも自制しなくてはいけませんでした。
無駄な高低差とかくぐる行為っていうのが、子供達にとっては特別なエリアに入ったよ、とか体感としてあるのでとても大事でしたが、結果的にフラットな空間になって…
―――なるほど、それは本当に残念でしたね。それでもフラットな空間とは全く思えませんでしたし、本当に楽しく素晴らしいデザインとイベントでした。
香坂:ありがとうございます。
---今日は本当に興味深い話を聴きながら会場内もわざわざ案内してもらって楽しめました。ありがとうございます。
ここから先はさらにページを移して舞台美術家としての香坂さん自身のことを少し伺おうと思います。
レーンのバランスを取ろうと奮闘する子どもたち
―――ここからは少しカジュアルに話を聞きたいと思います。まず好きなものシリーズと題打って、好きな色・形・数字などはありますか?
香坂:………。あんまり思い浮かばないです。どういう意図ですか?
―――例えば、好きな色を自分のデザインに使いがちだとか…ありますか?
香坂:作品に合うと思う色を使い分けるので、あまりそんなことはないですね。
―――では好きな空間・場所はありますか?
香坂:ワクワクする場所が好きです。完成された場所よりもこれから何かがおこる予感がするところが好きなので、劇場とか好きです。本番観るよりも好きかもしれない(笑)。
―――これは、とんだカミングアウトですね(笑)。
香坂:そうですね。実際、創作過程の方により魅力を感じます。
それから子供の頃の原風景が北海道の広い野山なので、広がりのある空間に惹かれます。
―――好きな音楽・作業中に聴いたりするお気に入りの音楽はありますか?
香坂:好きな音楽は特にこだわりはないんですが、例えばラジオである曲が流れてその曲を好きになったらずーっとその曲ばっかり延々聴いてしまうということはしょっちゅうありますね。
―――ひとつのことを大切に…ですね。一つ一つの作品に対する愛にあふれている美術家タイプ。
香坂:かもしれません。あまりサッサッと流していくのは好きじゃないので。
―――いいですね。最近楽しんだことはありましたか?
香坂:先ほど会場でも言いましたが、20代の若い人たちと一緒に作業したことが楽しかったです。
若いエネルギーをたっぷり吸い取りました(笑)。彼らの名前も、どんなことが得意なのかということも短時間で必死で覚えてチームになっていけたらと思いました。
仕込み風景
―――では「楽しい」の逆でストレスになった時には何か対処法などありますか?
香坂:私は野山を歩きます。ハイキング程度のにわか登山ですが、気分転換と体を動かすことを兼ねて友人と一緒に行ったりします。
―――それは頭を空っぽにするとか?登山中にアイディアが浮かんで来ることってありますか?
香坂:気分転換なので頭を空っぽにするという感じですが、浮かんで来ることもありますね。
―――いつも持ち歩いているアイテムなどあったりしますか?
香坂:手ぬぐいです。
―――いい趣味をしてますね。
香坂:はい。夏は汗止めに首に掛けて、冬は寒いので首に巻いて。他にも何でもできる万能物です。
可愛いのもいっぱいありますし。
―――では皆が聞きたい事だと思いますが、率直にデザインアイディアはどういう時に浮かびますか?
香坂:電車の中が多いですね。一番仕事がはかどります(笑)。
―――電車の中で?それは…以外ですね(笑)。雑音や雑踏の中の方が浮かびやすい?
香坂:それもありますが、電車が好きだというのもあります。昔18切符で、よく色んなところに行きまして、年齢を重ねても18切符で(笑)。
―――幾つになっても18(笑)。続いてデザインスキルを上げるためにしている(いた)ことは?
香坂:月並みですけどよく美術館とかはいきます。最近ですと石岡瑛子さんの展示会に行きました。素晴らしかったです。
―――石岡さんは世界で活躍されてましたね。自分も行きました。
舞台美術を始めた経緯といいますか、デザイナーとしての原点は?
香坂:もともと絵を描くのは好きでだったので、だったら母と同じ美大の付属中学にと。
―――母親と同じ。
香坂:それで高校の時なんですが、邦画にすごくハマりまして。黒澤映画とか。
その頃がちょうど日本映画生誕100周年ということで名画座――銀座のみゆき座・池袋の文芸座――などで連日名画を上映していて、その映画の出演者や監督のトークショーも一緒にあったので足繁く通ってました。
―――これはまた…女子高生が渋い趣味ですね。かなり浮いていたんじゃないですか?(笑)
香坂:かもしれません(笑)
そういった趣味もあり、大学卒業後の就職進路を考えた時に映画美術に関係した仕事につきたいと漠然と考えていたんですが、とある機会に演劇のイベントのボランティアに参加しまして――その頃は映画も演劇も似たようなものだと思っていて――それが面白くて演劇の方にも興味が湧いて、それから….ですね。
―――それから、演劇の世界に。
香坂:はい。 そして重要なのは、(美術)作家の方々のように独りで創作活動に打ち込むよりもみんなと共に創り上げる過程にも強く惹かれました。
―――総合芸術たる所以ですね。そこで道が決まったわけですね。好きで始めても色々と大変だとは思いますが、仕事を楽しむコツは何かありますか?
香坂:マイペースです。別名・「おばさん力」。
―――「おばさん力」(笑)
香坂:自分でもよくわかりませんが(笑)、あれこれ心配ばかりするのでなく、できるだけ楽しいことに集中するというスタンスですね。マイペースに。
―――良い意味で力まずに仕事に臨まれているということでしょうかね。ではいよいよ最後の質問です。自分の中でこれまでに印象に残っている作品はありますか?それはなぜですか?
香坂:ものすごく一つの一つの作品にどっぷり使ってしまう性格の美術家なので全ての作品が割と気持ち的には印象に残ってるといえば残っていますが…、あえて挙げるならデビュー作でしょうか?20年ほど前の「劇」小劇場での作品です。
―――デビュー作ですか。
香坂:規模は大きくはないんですが、20代の頃の初めて取り組んだ仕事が自分の中では自信にも繋がりました。
―――劇団とのお仕事ですか?それともプロデュース公演?
香坂:劇団とプロデュース公演になります。2団体連続公演の企画でした。
―――2団体と!?変則的な企画ですね。
香坂:はい。一応、基本は共通のベースになる美術があり、多少の飾り変えというか色を変えたりと変化があるものでした。
―――なるほど。その2団体というのは?
香坂:三田村組とONEOR8です。全てが初めてづくしだったんですが、そこから他の人たちとの関係も広がり、ありがたいことに20年経った今でも良い縁が続いていて感謝してます。
―――それは素晴らしいですね。きっと香坂さん自身の人柄の賜物だと思いますし、良いデザイン・取組みをしてきた結果だと思います。
今日はお忙しいところ本当にありがとうございました。これからも「おばさん力」を駆使して頑張ってください(笑)。
プロフィール
香坂 奈奈 (こうさか なな)
女子美術大学工藝科織専攻を卒業後、舞台美術家加藤ちか氏、堀尾幸男氏に師事。2001年に三田村組「分署物語2」下北沢「劇」小劇場公演で、初デザイン。文化庁新進芸術家海外研修制度研修員として2014年より1年間ドイツベルリンのBerliner Ensemble劇場にて舞台美術の研修を行う。2017年第45回伊藤熹朔賞本賞を森新太郎演出「管理人」の美術で受賞。1977年生まれ。
主な作品に、ONEOR8「思い出トランプ」、シアタークリエ「ゼブラ」、三田村組蓬莱竜太演出「男の一生」、TEAM NACS「下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム」、演劇集団円「Double Tomorrow」、ナイロン100℃「睾丸」、SPAC西悟志演出「授業」、こまつ座「どうぶつ会議」、シアタートラム小川絵梨子演出「熱帯樹」。
編集後記:
「みんなのリトル高円寺」は無事最終日を終えまして、期間中に1000人以上の来場者を迎えられたとお知らせがありました。感染対策も徹底していたおかげで感染者発生は0人、この時期の参加型のイベントとしてはとても誇らしい結果になりました。
お子さんのいらっしゃる方はぜひ来年参加してみてはいかがでしょうか?今回来場されていた方々のように、皆さん笑顔で劇場を後にされることでしょう。
座・高円寺にて( 05.06.2021 )
関連リンク
プロフィール
香坂 奈奈
香坂 奈奈
KOHSAKA Nana
美術(装置)
主な作品:「人間ぎらい」五戸真理枝演出、「熱帯樹」小川絵梨子演出、ナイロン100℃「睾丸」ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出、「管理人」森 新太郎演出、SPAC「授業」西 悟志演出、TEAM NACS「下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。」大泉 洋作・演出、東宝「ゼブラ」田村孝裕作・演出、三田村組「男の一生」蓬莱竜太作・演出、...